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ピアノワンポイントコラム⑪譜読み~その3「楽曲の文脈~ミクロの視点から」

 

前回

楽譜を設計図に見立てて、

楽曲の構造形式について

お話しをしました。


さらには


楽曲には

デザインだけでなく

『文脈』が存在すること、


楽譜を脚本に見立てて

読み解くことの

可能性、


楽曲の『構造』と『形式』を


それぞれ


☆構造(骨組み)→プロット

☆形式(間取り)→場面

に置き換えられるところ

までお話しました。


続けて、


☆ 声部(音域)→登場人物

☆メロディ →台詞

☆動機(モチーフ)

情景、台詞、登場人物などを司る

キャラクターの素材


などに置き換えてみます。


強弱、テンポ、

アーティキュレーション、

ペダルなどの表示を

参考にしながら


実際にそれぞれの音符を

音に起こしていきます。


ただ表示に従うのではなく、

「何故その様な表示がなされているのか」

と問いかけます。


脚本としての楽譜(楽曲の文脈)

    
Photo by Waldemar Brandt 

ここからが肝心です!


それぞれの要素を

様々な角度から比べて

違いや変化に着目します。



例えば、


メインテーマの部屋→「居間」

二度現れるとします。


同じ「居間」でも

最初と二度目で

調(又は モード)】

異なれば

部屋の雰囲気

変化します。


ハ長調のメインテーマ:

昼間の「居間」

ヘ長調のメインテーマ:

夕暮れ時の「居間」


といった感じです。


たとえ


居間の場面が

再び同じ調で

現れたとしても、


最初のシーンの「居間」と、

様々な出来事の後に

再び現れる「居間」とでは

印象は異なります。


時間芸術の妙

ここにあります。


次に


メロディ→台詞ですが、


同じ台詞でも

音域が変われば

人物

入れ替わり、


和声が変化すれば

台詞に伴う

表情

変わります。


また、


同じメロディに

アーティキュレーション

変化が生じたり、

装飾バリエーション

加わることで

台詞の言い回し

変化します。


例を挙げると

きりがありませんが、


このように少しずつ

マクロ→ミクロ

視点を移し

詳細な変化に

注目することで

少しずつ文脈が

浮かび上がってきます。


このような

プロセスを経て

実際に音に起こしていく中で、


視覚だけでは

得られなかった情報も

どんどんインプットされ、

楽曲に対するビジョンが

少しずつ深まります。



譜読みの手掛かりとなる3つのコンセプト
Witz, Scharfsinn, Tiefsinn


このように、
様々な音楽の要素を
多角的に「比較する」と
いうことは

シュレーゲルをはじめとする

ドイツロマン派の

美的概念の一つ

||

Witz [独](wit [英]):「機知

関係しています。


Wits (英:wit)とは

無秩序で無関係に見える事象に

「部分的な共通点」を

見つけることです。(※)


物事が隣同士に

並べられているときは

比較的比べやすいのですが、


比べる対象が

離れ離れであったり、

全く異なる表層を

持っていた場合


その共通点は

見つけにくくなります。


例えば、

「居間で使われた

メロディの一部と

曲全体の骨組み

が一致している」


「居間で使われた

モチーフの断片を

反転させたものが

廊下の壁の模様に

なっている」


といったように


同じ要素が

異なる尺度で

使われていること

気付くことが

作品を深く読み解く

鍵になります。


例えば

私が大好きな

シューマンの作品は、


一見無関係に見える

モチーフの断片たちが、

脈絡もなく気まぐれに

飛び交っている様に

見受けられることもありますが


"Witz"を

働かせると


巧妙に仕掛けられた

トリックに

気付き始めます。


いわゆる

楽曲の「伏線」が

これに当てはまりますが

シューマンはもとより

ドビュッシーや

スクリャービンも

伏線回収の天才だと思います。


さらに、


ジャン・パウル

Witz補完する

残り二つの概念:


Scharfsinn [独]

Tiefsinn [独]


にも触れています。


Scharfsinn

「洞察力」などと

訳されますが、


「似た者同士の間に

部分的な違いを

見つける」


という意味があります。


先の例に挙げたように、


「同じ居間でも

時間帯や

時間の経過によって

雰囲気が変わる」


といったようなことです。


双子でも

性格が異なるように、


楽曲においても


同じテーマでも

設定が変化したり

別の要素が加わることで

全く異なる

表情が生まれることも

あります。


最後に、


Tiefsinn


英語で

 ”profundity” (深淵さ)

 ”the depth of meaning”(含蓄)

少し詩的な表現を使えば

”spirit”(精神)

などと訳されますが、


表面的な違いを超えた

万物を貫く「普遍性」


です。



私が


前回のブログ


『核心』


と呼んだものです。


では

楽曲の『核心』

とはいったい

何なのでしょうか。


ここで今一度

マクロの視点に立ち返ります。



次回は

『譜読み』最終章


譜読み~その4:「大事!」を見極める



※ドイツロマン派の哲学者フリードリヒ・シュレーゲルによって唱えられたこのコンセプトは、ロベルト・シューマンの作品を読み解く大きなカギの一つでもあります。シュレーゲル、ジャン・パウルはともにシューマンの作品に大きな影響を与えました。Witz, Scharfshinn, Tiefsinnコンセプトの説明は拙稿(⇩)、特に12-14ページをご参照ください。(ご興味のある方は巻末の参考文献も是非ご覧ください。)

↑無料でダウンロードいただけます。